0. この記事でわかること
本記事では、エーエスエムエル・ホールディング(ASML)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: EUV露光装置の独占供給、AI・IoT半導体需要の拡大、2030年売上440-600億ユーロ目標
- 事業内容と成長戦略: 半導体製造装置の世界的リーダー、EUV技術で市場シェア100%、組立特化で長期サービス収益を確保
- 競合との差別化: EUV技術の世界唯一のサプライヤー、DUV市場でもシェア83%、TSMC・Intel・Samsungとの強固な関係
- 財務・配当の実績: 2024年Q4受注71億ユーロと好調、2030年目標売上440-600億ユーロ、粗利率56-60%。配当利回り約1%
- リスク要因: 中国市場の需要減少、対中輸出規制、半導体サイクルの変動、受注のばらつき、オランダ・日本の二重課税
1. なぜエーエスエムエル・ホールディング(ASML)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
エーエスエムエル・ホールディングは、次の3つの戦略で長期的成長を目指しています:
EUV(極端紫外線)リソグラフィ技術の独占
ASMLは、最先端半導体製造に不可欠なEUV露光装置の世界唯一のサプライヤーです。市場シェアは83%を持ち、2025-2030年に2桁成長を見込む唯一の技術供給者として、圧倒的な競争優位性を確立しています。
主要顧客との関係深化
TSMC、Samsung、Intelとの関係を強化し、2030年に売上440-600億ユーロを目指しています。これらの大手半導体メーカーは、先端プロセス(7nm以下)の製造にEUV装置が必須であるため、ASMLへの依存度が極めて高い状況です。
AI・IoT半導体需要の取り込み
先端半導体製造に不可欠なEUV装置の需要増加により、2026年売上が2025年を上回る見通しです。AI・データセンター、IoT機器、自動運転車などの普及が、半導体需要を長期的に押し上げる見込みです。
(2) 注目テーマ(EUV技術・AI半導体・ムーアの法則)
投資家が注目する主要テーマは以下の3つです:
- EUV(極端紫外線)リソグラフィ技術: 最先端半導体(5nm、3nm、2nm以下)の製造に必須の技術で、ASMLが世界で唯一供給
- AI半導体・IoT半導体の製造需要: AI・データセンター向けチップの需要拡大により、EUV装置の受注が急増
- ムーアの法則の継続(次世代半導体プロセス): 半導体の集積度が18-24ヶ月ごとに2倍になるという経験則を支える技術として不可欠
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点:2024年第4四半期は受注71億ユーロと予想を大きく上回る好調な結果を示し、株価は11%急騰しました。2030年には売上440-600億ユーロ、粗利率56-60%を目標とし、長期的な成長期待は健在です。アナリストコンセンサスは「中程度の買い」で、25人が買い推奨、1人のみ売り推奨です。
懸念点:一方で、新規受注36億ユーロと低調で、2025年売上の着地点が不透明です。2025年売上ガイダンスを300-350億ユーロに下方修正し、株価が14%下落した時期もあります。中国市場の2026年需要減少を予想しており、地政学的リスクが懸念されます。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はASML Holding N.V.公式IRページをご確認ください。
2. エーエスエムエル・ホールディングの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(EUV露光装置・DUV装置)
ASMLは、半導体製造に必要なリソグラフィ(露光)装置を製造・販売する世界的企業です。主力事業は以下の2つ:
EUV(極端紫外線)露光装置
最先端半導体(5nm以下)の製造に必須の装置で、世界で唯一ASMLのみが供給しています。1台あたりの価格は約150-200億円と非常に高額で、高い利益率を実現しています。
DUV(深紫外線)露光装置
7nm以上のプロセスで使用される露光装置で、市場シェア83%を保有しています。Nikon、Canonと競合していますが、圧倒的なシェアでトップを維持しています。
これらの装置に加え、長期的なサービス・保守契約により、安定的な収益基盤を構築しています。機械の寿命は30年以上で、長期的なサービス収益を確保できる点が強みです。
(2) セクター・業種の説明(半導体製造装置)
ASMLは、「情報技術(Information Technology)」セクターの「半導体・半導体製造装置(Semiconductors & Semiconductor Equipment)」業種に属します。
半導体製造装置業界は、半導体メーカーの設備投資動向に業績が連動するため、景気サイクルの影響を受けやすい特性があります。しかし、ASMLはEUV技術の独占により、業界内で圧倒的な競争優位性を持っています。
(3) ビジネスモデルの特徴(組立特化・長期サービス収益)
ASMLのビジネスモデルには、以下の特徴があります:
- 組立に特化: 部品の大半を外部委託し、ASMLは組立に特化したビジネスモデルを採用。これにより、資本効率が高い
- 長期サービス収益: 機械の寿命は30年以上で、長期的な保守・アップグレードサービスにより継続的な収益を確保
- 技術的優位性: EUV技術の開発に20年以上を費やし、競合が追いつけない技術的堀を築いている
一方で、受注のばらつきにより四半期業績が大きく変動する可能性がある点に注意が必要です。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Nikon、Canon、Applied Materials)
Nikon・Canon(DUV露光装置)
DUV露光装置市場ではNikonとCanonが競合していますが、ASMLのシェアは83%と圧倒的です。また、EUV技術ではASMLが独占しているため、最先端半導体製造において競合は存在しません。
Applied Materials(半導体製造装置全般)
半導体製造装置全体の市場では、エッチング装置やCVD装置を手がけるApplied Materialsなどが競合しますが、露光装置の分野ではASMLが独占的地位を保っています。
(2) 競合優位性(EUV技術の独占・市場シェア83%)
EUV技術の独占
ASMLは、最先端半導体製造に必要なEUV露光装置の世界唯一のサプライヤーです。この技術的優位性により、TSMC、Samsung、Intelなど大手半導体メーカーすべてがASMLに依存しています。
長期的なR&D投資
EUV技術の開発に20年以上を費やし、1台あたり約150-200億円という高額な装置を製造できる技術力を確立しています。競合が追いつくには莫大な時間とコストが必要です。
強固な顧客関係
TSMC、Samsung、Intelとの長期的なパートナーシップにより、安定的な受注を確保しています。
(3) 市場でのポジショニング(先端半導体製造の必須パートナー)
ASMLは、「先端半導体製造に不可欠な存在」として市場で独自のポジショニングを確立しています。
特に、AI・データセンター向けチップ、5Gスマートフォン、自動運転車など、最先端技術を必要とする分野では、ASMLのEUV装置なしには製造が不可能です。このため、半導体業界における「必須パートナー」としての地位を揺るぎないものにしています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(2024年Q4受注71億ユーロ・2030年目標)
2024年第4四半期業績
- 新規受注: 71億ユーロ(予想を大きく上回る)
- 2025年第3四半期: 売上75億ユーロ、純利益21億ユーロ
- EPS: 5.48ドル(アナリスト予想5.42ドルを上回る)
2025年ガイダンス:売上300-350億ユーロ(IntelとSamsungの弱さで一部受注が2026年にずれ込んだが、管理層は2026年売上が2025年を上回ると予想)
2030年目標:売上440-600億ユーロ、粗利率56-60%
(出典: Morningstar - ASML Earnings: Strong Orders and Conservative Outlook)
(2) 配当履歴(配当利回り・配当性向・連続増配)
ASMLは安定的な配当を支払っており、配当利回りは約1%程度です(2025年10月時点)。
配当課税の注意点:ASMLはオランダ企業のADRであるため、配当課税がオランダ15% + 日本20.315%の二重課税となります。ただし、NISAを利用すれば日本の課税を回避でき、実質的な税負担を軽減できます。
配当性向は比較的低く抑えられており、利益の大部分を研究開発や事業拡大に再投資する戦略を取っています。
(3) 財務健全性(粗利率・フリーキャッシュフロー)
粗利率
2030年目標として粗利率56-60%を掲げており、高い収益性を維持する見込みです。EUV装置の高単価と独占的地位が、高い粗利率を支えています。
フリーキャッシュフロー
安定的なキャッシュフローを生み出しており、研究開発投資や株主還元に充てています。
財務健全性
自己資本比率が高く、有利子負債も適切に管理されており、財務健全性は良好です。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はASML Holding N.V.公式IRページをご確認ください。
(出典: ASML Holding N.V. Annual Report 2024, Morningstar)
5. リスク要因
(1) 事業リスク(受注のばらつき・顧客依存・半導体サイクル)
受注のばらつき
新規受注36億ユーロと低調な四半期もあり、受注のばらつきにより四半期業績が大きく変動する可能性があります。
顧客依存
TSMC、Samsung、Intelなど大手半導体メーカーへの依存度が高く、これらの企業の設備投資動向が業績に直接影響します。
半導体サイクルの変動
半導体業界全体のサイクル変動の影響を受けやすく、景気後退期には設備投資が減少するリスクがあります。
(2) 市場環境リスク(中国市場需要減・地政学リスク)
中国市場の需要減少
2026年に中国市場の大幅な需要減少を予想しており、地政学的リスクが懸念されます。中国市場の売上比率が高いため、対中輸出規制の影響が大きくなる可能性があります。
対中輸出規制
米国・オランダ政府による対中輸出規制により、EUV装置の中国向け輸出が制限されています。この規制が強化された場合、売上に大きな影響を及ぼす可能性があります。
為替リスク
米国株投資である以上、円高・円安の影響を受けます。また、オランダ企業のためユーロ/ドル為替も業績に影響を与える点に注意が必要です。
(3) 規制・競争リスク(対中輸出規制・台湾TSMC依存)
対中輸出規制の強化
地政学的緊張が高まった場合、さらなる輸出規制が課される可能性があります。
台湾TSMC依存
TSMCは最大の顧客の一つであり、台湾海峡の緊張が高まった場合、事業に大きな影響を受ける可能性があります。
技術競争リスク
現在はEUV技術で独占的地位を持っていますが、将来的に代替技術が登場するリスクはゼロではありません。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(EUV独占・長期成長期待・セクターリーダー)
- EUV技術の独占: 世界唯一のEUV露光装置サプライヤーとして、圧倒的な競争優位性を確立
- 長期成長期待: AI・IoT時代の先端半導体製造に不可欠な存在で、2030年売上440-600億ユーロを目標
- セクターリーダー: 半導体製造装置業界のトップ企業として、TSMC・Intel・Samsungと強固な関係を構築
(2) リスク要因(半導体サイクル・中国市場・配当課税)
- 半導体サイクルの変動: 景気後退期には設備投資が減少するリスク
- 中国市場の需要減少: 対中輸出規制や地政学的リスクによる売上減少の可能性
- 配当課税: オランダ15% + 日本20.315%の二重課税(NISAで日本の課税を回避可能)
(3) 向いている投資家(長期投資家・テクノロジー株志向・NISA活用)
エーエスエムエル・ホールディングは、以下のような投資家に向いています:
- 長期投資家: AI・IoT時代の先端半導体製造に不可欠な存在で、長期的成長が見込まれる
- テクノロジー株志向の投資家: 半導体セクターのリーダー企業として、技術的優位性を評価できる方
- NISA活用の投資家: 二重課税のデメリットを軽減できるため、NISAでの保有がおすすめ
一方で、短期的な株価変動を避けたい投資家、配当収入を重視する投資家には向いていません。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としたものであり、個別銘柄の推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データ、税率、為替レートは執筆時点のものであり、変動する可能性があります。
Q: エーエスエムエル・ホールディングの配当利回りは?
A: 配当利回りは約1%程度です(2025年10月時点)。ASMLはオランダ企業のADRであるため、配当課税がオランダ15% + 日本20.315%の二重課税となる点に注意が必要です。ただし、NISAを利用すれば日本の課税を回避でき、実質的な税負担を軽減できます。
Q: エーエスエムエル・ホールディングの主な競合は?
A: EUV露光装置では世界唯一のサプライヤーで競合なしです。DUV露光装置ではNikon、Canonが競合ですが、市場シェア83%でトップを維持しています。半導体製造装置全体ではApplied Materialsなどが競合しますが、露光装置の分野ではASMLが独占的地位を保っています。
Q: エーエスエムエル・ホールディングのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は、(1)中国市場の需要減少(2026年予想)、(2)対中輸出規制による地政学リスク、(3)半導体サイクルの変動、(4)受注のばらつきによる業績変動、(5)台湾TSMCへの依存、(6)為替変動リスクなどです。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。
Q: エーエスエムエル・ホールディングは長期投資に向いている?
A: AI・IoT時代の先端半導体製造に不可欠な存在で、長期的成長が見込まれるセクターリーダーです。TSMC、Samsung、Intelなど主要顧客との関係も強固で、長期投資家に向いています。2030年には売上440-600億ユーロを目標としており、成長余地も大きいと言えます。投資判断はご自身の責任で行ってください。
