米国株下落の仕組みと調整局面の定義
「また米国株が下がっている...」「このまま保有して大丈夫だろうか?」
投資をしていると、株価が下落する局面に必ず遭遇します。2025年だけでも、1月のAI競争激化、4月の関税ショック、10月の対中貿易摩擦など、何度も大きな下落がありました。
しかし、下落の理由を理解していないと、不安から冷静な判断ができなくなります。逆に、下落の要因と対処法を知っていれば、落ち着いて対応できます。
この記事では、米国株が下落する主な要因を体系的に整理し、2025年の実例を踏まえて、下落時の冷静な対処法を解説します。
この記事のポイント:
- 調整局面(10%下落)は正常な市場動態であり、必ずしも暴落の前兆ではない
- 下落の主要因はFRB政策・企業業績・バリュエーション・地政学リスク・市場心理の5つ
- 2025年は関税政策とAI懸念が主要な下落要因だった
- 長期投資家は狼狽売りを避け、保有継続が推奨される
- CAPE比率やVIX指数で調整リスクを事前に察知できる
1. 米国株下落の仕組みと調整局面の定義
株価が下落する局面には、程度に応じていくつかの定義があります。まず基本用語を整理しましょう。
(1) 調整局面(Market Correction)と弱気相場(Bear Market)の違い
調整局面(Market Correction)
株価が直近高値から10%以上下落した状態を指します。調整は正常な市場動態の一部とされ、過熱した株価が適正水準に戻る動きです。
弱気相場(Bear Market)
株価が直近高値から20%以上下落し、下落トレンドが続く市場状況を指します。弱気相場は景気後退を伴うことが多く、回復に時間がかかります。
(出典: U.S. Bank "Is a Market Correction Coming?")
(2) 調整は正常な市場動態
調整局面は「悪いこと」ではありません。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは、今後1-2年で10-20%の調整が発生する可能性があると予測していますが、これは市場が健全に機能している証拠でもあります。
歴史的に見ると、S&P500は平均して2年に1度は10%以上の調整を経験していますが、長期的には必ず回復しています。
(出典: CNBC "Goldman Sachs, Morgan Stanley warn of a market correction")
2. 2025年の主要下落局面
2025年には、複数の大きな下落局面がありました。それぞれの要因を振り返りましょう。
(1) 1月27日のDeepSeek競争激化(エヌビディア急落)
2025年1月27日、中国のAI企業DeepSeekが低コストで高性能なAIモデルを発表し、米国のAI関連企業の優位性に疑問符が付きました。
エヌビディアの株価は急落し、テクノロジー株全体が下落しました。AI投資の収益性への懸念が市場心理を冷やした事例です。
(出典: moomoo "米国株価が下がるとどうすればいい?")
(2) 4月2日のトランプ関税ショック(S&P500が約2兆ドル消失)
2025年4月2日、トランプ大統領が「解放の日」として包括的な関税措置を発表しました。この政策により、景気後退懸念が強まり、S&P500は約2兆ドルの時価総額を失いました。
この下落は、COVID-19パンデミック以来最大規模の市場急落となり、S&P500は調整局面入りしました。
(出典: Bloomberg "米国株急落、S&P500種は調整局面入り"、Wikipedia "2025 stock market crash")
(3) 10月の対中関税警告(S&P500が2.7%下落)
2025年10月、トランプ大統領が中国に対する関税引き上げを警告し、再び市場は大きく下落しました。S&P500は2.7%下落し、4月以来最大の下落幅を記録しました。
米中貿易摩擦の再燃が市場の不確実性を高め、リスク回避の動きが強まりました。
(出典: Bloomberg "米国市況:トランプ氏の対中警告で大揺れ")
3. 株価下落の主要要因
米国株の下落には、複数の要因が複雑に絡み合います。主要な5つの要因を見ていきましょう。
(1) FRB金融政策の変更(利上げ・利下げペース鈍化)
FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策は、株価に大きな影響を与えます。
利上げ
金利が上昇すると、企業の資金調達コストが増加し、投資や事業拡大が難しくなります。また、債券の利回りが上がるため、株式から債券への資金シフトが起きやすくなります。
利下げペースの鈍化
2025年、市場は当初125ベーシスポイント(1.25%)の利下げを予想していましたが、実際には40ベーシスポイント未満に縮小しました。この期待後退が株価の重石となっています。
2025年11月現在、FRBの12月利下げ確率は約46%に低下(1週間前は約70%)しており、金融政策の不確実性が市場のボラティリティを高めています。
(出典: U.S. News "Will the Stock Market Crash in 2025? 4 Risk Factors")
(2) 企業業績の悪化
株価は長期的には企業の利益(EPS: Earnings Per Share、1株利益)に連動します。企業業績が悪化すれば、株価も下落します。
2025年のS&P500企業のEPS伸び率は+14.3%が予想されていますが、期待を下回る決算が続けば調整の引き金になります。
(出典: GFS "米国株が下落する5つの原因と対策")
(3) 高バリュエーション(PERやCAPE比率の高水準)
バリュエーション(株価評価)が高すぎると、調整リスクが高まります。
CAPE比率(シラーPER)
過去10年間の実質平均利益で株価を割った指標です。歴史的平均は17ですが、2025年現在は39.5と大幅に高い水準です。これは株価が「割高」であることを示しています。
高バリュエーションの状態では、小さなネガティブニュースでも株価が大きく下落しやすくなります。
(出典: U.S. Bank "Is a Market Correction Coming?")
(4) 地政学リスク(関税政策・貿易摩擦)
戦争、テロ、貿易摩擦などの地政学リスクは、市場に大きな不確実性をもたらします。
2025年の場合、トランプ政権の関税政策が最大の地政学リスクでした。4月の「解放の日」関税発表では、約2兆ドルの時価総額が消失しました。
関税は企業のコスト増加や貿易量の減少を招き、企業業績を悪化させるため、株価にマイナスです。
(出典: Wikipedia "2025 stock market crash")
(5) 市場心理(VIX指数の上昇・リスク回避)
市場参加者の不安や恐怖が高まると、株価は下落します。
VIX指数(恐怖指数)
S&P500のオプション価格から算出される市場のボラティリティ予測指標です。VIXが上昇すると、投資家の不安が高まっていることを示します。
VIXが20を超えると、市場は不安定な状態にあると判断されます。
(出典: CBS News "4 reasons the stock market is plunging")
4. 調整の警告サインとバリュエーション分析
調整局面は突然発生するわけではありません。いくつかの警告サインがあります。
(1) CAPE比率39.5と歴史的平均17の乖離
前述の通り、CAPE比率が歴史的平均を大幅に上回っている場合、調整リスクが高まります。現在の39.5という水準は、ドットコムバブル期(2000年)に匹敵する高さです。
高バリュエーションが必ずしも暴落を意味するわけではありませんが、リスクが高い状態であることは確かです。
(出典: U.S. Bank "Is a Market Correction Coming?")
(2) 市場集中リスク(上位10銘柄が42%)
2025年、S&P500の上位10銘柄(Apple、Microsoft、Google、Amazon等)が指数全体の約42%を占めています。これはドットコムバブル期のピークを超える集中度です。
市場がごく少数の大型株に依存している場合、それらの株が下落すると市場全体が大きく下がるリスクがあります。
(出典: U.S. Bank "Is a Market Correction Coming?")
(3) 証拠金債務の過去最高水準(1.06兆ドル)
証拠金債務(Margin Debt)とは、投資家が株式購入のために借りている金額です。2025年8月、証拠金債務は1.06兆ドルと過去最高を記録しました。
証拠金取引はレバレッジをかけた投資であり、株価が下落すると強制売却(マージンコール)が発生しやすく、下落を増幅させる危険があります。
(出典: Researcherステップの分析)
(4) ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの調整予測
大手投資銀行のゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは、今後1-2年で10-20%の調整が発生する可能性があると予測しています。
これらの予測は確実ではありませんが、プロの投資家が調整リスクを認識していることを示しています。
(出典: CNBC "Goldman Sachs, Morgan Stanley warn of a market correction")
5. 下落時の対応戦略
下落局面では、冷静な対応が求められます。長期投資家と短期投資家でアプローチが異なります。
(1) 狼狽売りを避ける(過去の下落は必ず回復)
歴史的に見ると、調整局面や弱気相場は必ず回復しています。2020年のコロナショックでは、S&P500は短期間で30%以上下落しましたが、その後数ヶ月で回復しました。
2025年4月のトランプ関税ショックでも、S&P500は6月27日には完全に回復しました。
下落時にパニックで売却すると、回復時の利益を逃してしまいます。長期投資家は、下落を「買い増しのチャンス」と捉えることも有効です。
(出典: moomoo "米国株価が下がるとどうすればいい?")
(2) 長期投資家の対処法(ドルコスト平均法・リバランス)
ドルコスト平均法
毎月一定額を投資し続けることで、株価が安い時に多く買い、高い時に少なく買うことができます。下落局面でも淡々と買い続けることで、平均取得単価を下げられます。
リバランス
株式と債券などの資産配分を見直し、下落時に株式の割合が減っていれば買い増すことで、長期的なリターンを高められます。
(出典: GFS "米国株が下落する5つの原因と対策")
(3) 短期投資家の対処法(損切りルール・ポジション縮小)
短期投資家は、損失を限定するための対策が必要です。
損切りルール
購入価格から一定割合(例:10%)下落したら自動的に売却するルールを設定し、大きな損失を避けます。
ポジション縮小
市場が不安定な時は、保有株式の割合を減らし、現金比率を高めることでリスクを抑えます。
(出典: CBS News "4 reasons the stock market is plunging")
(4) 分散投資とリスク管理
特定の業種や銘柄に集中投資している場合、その分野が下落すると大きな損失を被ります。
米国株、日本株、債券、不動産など、複数の資産クラスに分散投資することで、リスクを分散できます。
6. まとめ:下落を冷静に受け止める
米国株の下落は避けられません。しかし、下落の理由と対処法を理解していれば、冷静に対応できます。
この記事で押さえたポイント:
- 調整局面(10%下落)は正常な市場動態であり、必ずしも暴落の前兆ではない
- 下落の主要因はFRB政策・企業業績・バリュエーション・地政学リスク・市場心理
- 2025年はトランプ関税政策とAI懸念が主要な下落要因だった
- 長期投資家は狼狽売りを避け、ドルコスト平均法やリバランスで対処
- CAPE比率39.5、市場集中リスク、証拠金債務の高水準が調整の警告サイン
次のアクション:
- VIX指数やCAPE比率を定期的にチェックして調整リスクを把握する
- 長期投資家はドルコスト平均法で淡々と投資を続ける
- 短期投資家は損切りルールを設定し、リスク管理を徹底する
- 分散投資でリスクを抑える
株価が下落しても、焦らず冷静に対応することが、長期的な資産形成の鍵です。投資判断は必ずご自身の責任で行ってください。
