0. この記事でわかること
本記事では、アトラシアン(TEAM)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: AI統合の加速、エンタープライズ顧客への拡大、クラウド移行の進展といった成長戦略と、投資家が抱える株価ボラティリティへの懸念
- 事業内容と成長戦略: Jira、Confluence、Trelloといった主力製品を活用したフリーミアム・セルフサービスモデルと、R&Dへの大規模投資による製品力強化
- 競合との差別化: Microsoft TeamsやSlackとの競争環境において、ネットワーク効果と90%超の顧客定着率により強固なポジショニングを確立
- 財務・配当の実績: 無配の成長株として20-30%の売上成長を継続し、FY25には52億ドルの売上と14億ドルのフリーキャッシュフローを達成
- リスク要因: 株価のボラティリティ、高バリュエーション(Forward P/S 9.76倍)、関税コスト圧力といった懸念材料
1. なぜアトラシアン(TEAM)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
アトラシアンは、以下の3つの戦略優先事項を掲げています:
エンタープライズ顧客への拡大(140億ドルの市場機会):100万ドル以上の年間契約を追跡し、Q4には過去最多の大型契約を締結しました(前年比2倍以上)。Fortune 500の85%がアトラシアンの製品を導入しており、大企業向け市場での競争力が証明されています。
AI統合の加速:Google Cloudとの戦略的パートナーシップを通じた高度なAIソリューションの提供が進んでいます。AI利用ユーザーは230万人に達し、前四半期比50%増加しました。AIエージェント「Rovo」を中心としたアプリ・エージェントのコレクション形式へ移行しており、単独製品からSystem of Workへと進化しています。
クラウド移行の継続的成長:Q3のクラウド収益は前年比25%成長を記録しました。Data CenterからCloudへの顧客移行が順調に進んでおり、クラウドサブスクリプションがアトラシアンの主要成長ドライバーとなっています。
(2) 注目テーマ(AI・Rovo・クラウド移行・エンタープライズ拡大)
AI・Rovo:AIエージェント「Rovo」はTeamwork Collectionとしてローンチ直後から期待を上回る実績を上げています。これにより、単なるプロジェクト管理ツールから、AIが業務を支援する包括的なワークプラットフォームへと進化しています。
クラウド移行:オンプレミス版Data Centerからクラウド版への移行は、継続的な収益成長の原動力となっています。クラウド顧客の前年比収益成長率(Cloud Net Retention Rate)は120%を維持しており、既存顧客が追加サービスを購入していることを示しています。
エンタープライズ顧客拡大:140億ドルの市場機会を持つエンタープライズ市場への拡大は、アトラシアンにとって重要な成長領域です。100万ドル超の大型契約の増加は、同社が中小企業向けツールから脱却し、エンタープライズ企業からも信頼される存在になっていることを示しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心:30-50代の日本人投資家は、SaaS・エンタープライズソフトウェアの成長性とリモートワーク普及による需要拡大に魅力を感じています。「Jira」や「Confluence」といった知名度の高い製品を持ち、顧客基盤が強固である点も評価されています。
投資家の懸念点:一方で、株価のボラティリティに対する不安が大きいのも事実です。強い決算にもかかわらず将来ガイダンスへの懸念で株価が下落する事例もあり、株価は52週安値156.5ドルを記録し、年初来34.38%下落しました。また、Microsoft TeamsやSlackとの競争、収益性の低さ(営業利益率10%前後)、高バリュエーション(Forward P/S 9.76倍は業界平均4.48倍の2倍以上)といった点も懸念材料として挙げられます。
アナリスト評価と将来見通し:アナリスト23名は平均目標株価264.96ドル(61.73%上昇)で「強気買い」評価をしています。収益とEPSはそれぞれ年14.6%・53%成長予測で、今後3年で黒字転換が見込まれています。日本でも「強気」評価が多く、みんかぶ目標株価は230.31ドルで「買い」、AI株価診断は「割安」としています。
2. アトラシアンの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(Jira・Confluence・Trello)
アトラシアンの主力製品は以下の3つです:
Jira(プロジェクト管理・課題追跡):ソフトウェア開発チーム向けのプロジェクト管理ツールで、アジャイル開発やスクラム開発において業界標準として広く使われています。課題追跡、スプリント計画、バックログ管理などの機能を提供し、チーム全体の進捗を可視化します。
Confluence(ナレッジベース・ドキュメント共有):チーム内でドキュメントやナレッジを共有するためのツールです。プロジェクトのドキュメント、会議のメモ、製品仕様書などを一元管理でき、Jiraと連携して使われることが多いです。
Trello(カンバンボード):視覚的なカンバンボード形式でタスク管理ができるツールで、2017年にアトラシアンが買収しました。シンプルで使いやすいUIが特徴で、個人から小規模チームまで幅広く利用されています。
これらの製品に加えて、Bitbucket(Git管理)やRovo(AIエージェント)などもポートフォリオに含まれています。顧客数は30万社超、ユーザー数は1000万人超に達しています。
(2) セクター・業種の説明(情報技術・ソフトウェア)
アトラシアンは、情報技術セクターのソフトウェア業種に分類されます。特にSaaS(Software as a Service)企業として、クラウドベースのサブスクリプションモデルで収益を上げています。SaaS市場は、オンプレミスからクラウドへのシフトやリモートワークの普及により急成長しており、アトラシアンはこの市場で重要な位置を占めています。
(3) ビジネスモデルの特徴(フリーミアム・セルフサービス)
アトラシアンの最大の特徴は、営業チームを持たない「フリーミアム + セルフサービス」モデルです。ユーザーが自己登録し、無料プランから始めて、必要に応じて有料プランにアップグレードする仕組みを採用しています。このモデルには以下のメリットがあります:
コスト抑制:営業部隊を持たないため、販売費および一般管理費(SG&A)を低く抑えられます。その分、R&Dに売上の約35%を投資しており、業界平均(10-15%)を大幅に上回る製品開発力を実現しています。
製品力と口コミでの成長:「フライホイールアプローチ」と呼ばれる戦略で、優れた製品を提供することで口コミが広がり、新規顧客を獲得します。顧客数は2万社・売上150億円から30万社・6000億円へと大幅に成長しました。
ネットワーク効果:チーム全体で使うほど価値が高まる「ネットワーク効果」があり、一度導入されると乗り換えコストが高いため、顧客定着率は90%超を維持しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Microsoft Teams・Slack・Asana)
アトラシアンの主要競合企業は以下の通りです:
Microsoft(Teams、Azure DevOps):Microsoft Teamsはコラボレーションツールとして急成長しており、Office 365との統合が強みです。Azure DevOpsはプロジェクト管理ツールとしてJiraと競合しています。
Slack(Salesforce傘下):チームコミュニケーションツールとしてSlackはConfluenceやJiraと一部重複する領域で競争しています。Salesforceに買収されたことで、CRMとの統合が強化されています。
Asana、Monday.com:プロジェクト管理・タスク管理ツールとして、JiraやTrelloと直接競合しています。これらは中小企業向けに特化しているケースが多いです。
(2) 競合優位性(ネットワーク効果・顧客定着率90%超)
アトラシアンの競合優位性は、ネットワーク効果と顧客定着率の高さにあります:
ネットワーク効果:チーム全体でJiraやConfluenceを使うことで、プロジェクトの進捗管理、課題追跡、ドキュメント共有が一元化され、情報の透明性が高まります。一度導入されると、他のツールに乗り換えるには全員が同時に移行する必要があり、コストと手間がかかります。このため、顧客定着率は90%超を維持しています。
製品ポートフォリオの広さ:Jira、Confluence、Trello、Bitbucketといった複数の製品を連携させることで、開発チームのワークフロー全体をカバーできる点も競合優位性です。特にソフトウェア開発チームにとっては、これらの製品が一体となって機能することで高い価値を提供しています。
R&Dへの大規模投資:売上の約35%をR&Dに投資することで、継続的に製品力を強化しています。これにより、AIやエンタープライズ機能といった新しい領域でも競争力を維持できています。
(3) 市場でのポジショニング(Fortune 500の85%導入)
アトラシアンは、Fortune 500の85%に導入されており、エンタープライズ市場での信頼性が高いことが証明されています。もともとは中小企業やスタートアップ向けツールとして始まりましたが、現在では大企業からも信頼される存在となっており、100万ドル超の大型契約が増加しています。
一方で、Microsoft TeamsのようにOffice 365との統合で圧倒的なシェアを持つ競合もあり、市場環境は厳しさを増しています。アトラシアンは、製品力とネットワーク効果により差別化を図りつつ、エンタープライズ顧客への拡大とAI統合により成長を目指しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(売上20-30%成長継続)
アトラシアンは、20-30%の売上成長率を継続しています。FY25(2025年度)には52億ドルの売上を達成しました。以下は過去5年の売上推移(概算)です:
| 年度 | 売上高(億ドル) | 前年比成長率 |
|---|---|---|
| FY21 | 約26 | - |
| FY22 | 約30 | 約15% |
| FY23 | 約37 | 約23% |
| FY24 | 約43 | 約16% |
| FY25 | 約52 | 約21% |
(出典: Atlassian Investor Relations、アナリストレポート)
クラウド収益の成長:クラウド収益は前年比25%成長を記録しており、全体の売上成長を牽引しています。クラウド顧客の前年比収益成長率(Cloud Net Retention Rate)は120%を維持しており、既存顧客が追加サービスを購入していることを示しています。
調整後EPS:Q4の調整後EPSは0.98ドルで、アナリスト予想の0.81ドルを上回りました。収益とEPSはそれぞれ年14.6%・53%成長予測で、今後3年で黒字転換が見込まれています。
(2) 配当履歴(無配の成長株)
アトラシアンは無配の成長株です。フリーキャッシュフローは全て製品開発に投資しており、配当を出す方針はありません。FY25には14億ドルのフリーキャッシュフローを達成しましたが、これは新製品開発やAI統合、エンタープライズ顧客拡大のための投資に充てられています。
配当を期待する投資家には向いていませんが、成長を重視する投資家にとっては魅力的な選択肢となっています。
(3) 財務健全性(営業利益率改善傾向・FCF14億ドル)
営業利益率:営業利益率は10%前後とSaaS企業としては低いですが、改善傾向にあります。営業チームを持たない「セルフサービス」モデルにより、販売費および一般管理費を抑えつつ、R&Dに大規模投資を続けています。
フリーキャッシュフロー(FCF):FY25には14億ドルのフリーキャッシュフローを達成しました。フリーキャッシュフローは「営業キャッシュフロー - 資本支出」で計算され、企業が自由に使える現金の額を示します。アトラシアンは、このFCFを製品開発や買収に活用しています。
財務健全性:自己資本比率やキャッシュポジションは良好であり、財務リスクは低いと言われています。ただし、関税コスト圧力や金利上昇といった外部環境の変化には注意が必要です。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はAtlassian Corp Plc公式IRページをご確認ください。(出典: Atlassian Investor Relations, Q3 FY25 Shareholder Letter, SEC EDGAR)
5. リスク要因
(1) 事業リスク(株価ボラティリティ・ガイダンス懸念)
株価のボラティリティ:アトラシアンの株価は大きく変動します。強い決算にもかかわらず将来ガイダンスへの懸念で株価が下落する事例もあり、Q4決算発表後には株価が9.4%下落しました。52週安値は156.5ドルを記録し、年初来34.38%下落しています。このボラティリティは、成長株特有のリスクであり、短期的な株価変動に耐えられる投資家向けです。
将来ガイダンスへの懸念:アトラシアンは強い業績を上げていますが、市場は将来のガイダンス(売上見通し、成長率予測)に敏感に反応します。特に、関税コスト圧力や競争激化による収益性への影響が懸念されています。
(2) 市場環境リスク(関税コスト圧力・金利上昇)
関税・コスト圧力:関税引き上げによるクラウドサービスプロバイダーおよびデータセンター運営コストの上昇が懸念されています。これにより、アトラシアンのコスト構造に影響が出る可能性があります。
金利上昇:金利上昇は成長株にとってマイナス要因です。金利が上がると、将来の収益を現在価値に割り引く際のディスカウント率が上がり、成長株のバリュエーションが下がる傾向があります。
為替リスク:アトラシアンは米ドル建ての株式ですが、豪州企業であるため、米ドル・豪ドルの為替変動が業績に影響する可能性があります。また、日本人投資家にとっては、円高進行時に円換算の投資価値が減少するリスクがあります。
(3) 規制・競争リスク(高バリュエーション・Microsoft競争)
高バリュエーション:Forward P/S(株価売上高倍率)は9.76倍で、業界平均の4.48倍を大幅に上回っています。これは市場がアトラシアンの成長性を高く評価している証拠ですが、期待に応えられない場合には株価が大きく下落するリスクがあります。
Microsoft Teamsとの競争:Microsoft TeamsはOffice 365との統合により急速にシェアを拡大しており、アトラシアンにとって大きな脅威です。特にエンタープライズ市場では、Microsoftのエコシステムに組み込まれる傾向が強く、アトラシアンは製品力とネットワーク効果で差別化を図る必要があります。
SlackやAsanaとの競争:Slack(Salesforce傘下)やAsana、Monday.comといった競合も、プロジェクト管理やコラボレーションツール市場で激しく競争しています。これらの競合がAI機能やエンタープライズ機能を強化する中、アトラシアンも継続的な製品改善が求められます。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
ネットワーク効果と高い顧客定着率:チーム全体で使うほど価値が高まるため、乗り換えコストが高く、顧客定着率90%超を維持しています。
AI統合とエンタープライズ顧客拡大:AIエージェント「Rovo」の成功と、100万ドル超の大型契約の増加により、エンタープライズ市場での競争力を強化しています。
R&Dへの大規模投資と製品力:売上の約35%をR&Dに投資することで、継続的に製品力を強化しており、競合との差別化を図っています。
(2) リスク要因(再掲)
株価のボラティリティ:強い決算後も将来ガイダンスへの懸念で株価が下落する事例があり、短期的な株価変動リスクが高いです。
高バリュエーション:Forward P/S 9.76倍は業界平均の2倍以上であり、期待に応えられない場合には株価が大きく下落するリスクがあります。
(3) 向いている投資家
SaaS・エンタープライズソフトウェアの成長性に注目する中級投資家:アトラシアンは、SaaS市場の成長を享受したい投資家に向いています。
配当を期待せず、成長を重視する投資家:無配の成長株であるため、配当収入を期待する投資家には向いていません。
株価ボラティリティに耐えられる投資家:成長株特有の株価変動に耐えられる、長期的な視点を持つ投資家に適しています。
免責事項:本記事は情報提供のみを目的としており、個別銘柄の推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データや税率、為替レートは変動するため、国税庁・金融庁・証券会社の公式情報をご確認ください。米ドル建て投資には為替リスクがあり、円高進行時は円換算の投資価値が減少します。
Q: アトラシアンの配当利回りは?
A: 無配です(2025年10月時点)。フリーキャッシュフローは全て製品開発に投資しており、配当を出す方針はありません。FY25には14億ドルのフリーキャッシュフローを達成しましたが、これは新製品開発やAI統合、エンタープライズ顧客拡大のための投資に充てられています。配当を期待する投資家には向いていませんが、成長を重視する投資家にとっては魅力的な選択肢となっています。
Q: アトラシアンの主な競合は?
A: Microsoft(Teams、Azure DevOps)、Slack(Salesforce傘下)、Asana、Monday.comなどです。ただしネットワーク効果で乗り換えコストが高く、顧客定着率90%超を維持しています。特にMicrosoft TeamsはOffice 365との統合により急速にシェアを拡大しており、アトラシアンにとって大きな脅威です。一方で、アトラシアンは製品ポートフォリオの広さとR&Dへの大規模投資により差別化を図っており、Fortune 500の85%に導入されています。
Q: アトラシアンのリスク要因は?
A: 株価ボラティリティ(強い決算後も株価下落の事例)、高バリュエーション(Forward P/S 9.76倍は業界平均の2倍以上)、関税コスト圧力、Microsoft Teamsとの競争などがあります。詳細は本文の「5. リスク要因」を参照してください。株価は52週安値156.5ドルを記録し、年初来34.38%下落しました。成長株特有のリスクであり、短期的な株価変動に耐えられる投資家向けです。
Q: アトラシアンは長期投資に向いている?
A: SaaS・エンタープライズソフトウェアの成長性に注目する中級投資家に向いています。ただし成長株特有の株価ボラティリティに耐えられる方向けです。投資判断はご自身で行ってください。アナリスト23名は平均目標株価264.96ドル(61.73%上昇)で「強気買い」評価をしており、今後3年で黒字転換が見込まれています。
