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アストラゼネカ (AZN)

AstraZeneca PLC ADR

著者: Single Stock編集部公開日: 2025/10/26

0. この記事でわかること

本記事では、アストラゼネカ(AZN)について以下の情報を提供します:

  • なぜ注目されているのか: 2030年売上800億ドル目標、オンコロジー世界トップ、20種類の新薬発売予定、日本市場2位に浮上
  • 事業内容と成長戦略: がん治療薬・希少疾患・循環器・呼吸器の4領域に注力、売上の25%をR&Dに投資、Alexion買収で希少疾患強化
  • 競合との差別化: オンコロジー売上世界トップ、希少疾患でAlexion買収により競争力強化、日本市場でトップとの差500億円まで縮小
  • 財務・配当の実績: 2025年Q2売上144.6億ドル(前年比11%増)、2017-2023年で売上・利益ともに倍増、配当利回り約2%
  • リスク要因: 中国当局による調査拡大、証券集団訴訟、新薬開発リスク、ポンド/ドル/円の三重為替リスク、薬価改定

1. なぜアストラゼネカ(AZN)が注目されているのか

(1) 成長戦略の3つのポイント

アストラゼネカは、次の3つの戦略で長期的成長を目指しています:

2030年までに売上800億ドル達成
2025年Q2時点で年率11%成長を継続しており、2030年までに20種類の新薬を発売予定です。多くの新薬がピーク年に50億ドル以上の収益を見込んでおり、高い成長期待が維持されています。売上の約25%を研究開発費に投資しており、業界平均を上回る製品上市を実現しています。

オンコロジー・希少疾患・肥満薬への注力
オンコロジー(がん治療薬)で世界トップの売上を誇り、2021年にAlexion(希少疾患専門)を買収したことで、5つの上市済み希少疾患薬とパイプラインを獲得しました。さらに、肥満薬市場への積極投資により、成長領域を拡大しています。

日本市場での存在感拡大
2023年国内売上4,960億円(前年比8.2%増)で2位に浮上し、トップの中外製薬との差は約500億円まで縮小しました。2022年に「イジュド」「オンデキサ」「テゼスパイア」「エバシェルド」の4製品が承認されるなど、日本市場でのプレゼンスを高めています。

(2) 注目テーマ(オンコロジー・希少疾患・肥満薬)

投資家が注目する主要テーマは以下の3つです:

  • オンコロジー(がん治療薬)パイプライン: 売上の約40%を占める主力領域で、世界トップの売上を誇る
  • 希少疾患治療薬(Alexion買収): 2021年のAlexion買収により、売上の17%を占める成長領域に強化
  • 肥満薬市場への参入: 成長市場である肥満薬への積極投資により、新たな収益源を確保

(3) 投資家の関心・懸念点

関心点:2025年Q2は売上144.6億ドル(前年比11%増)、EPS 2.17ドル(予想を99%上回る)と好調な業績を達成しました。2017-2023年で売上が22億ドルから45億ドルに倍増、純利益が30億ドルから60億ドルに倍増しており、長期的な成長実績があります。アナリストコンセンサスは「中程度の買い」で、2030年には株価89.44ドル(+30.15%)と予測されています。

懸念点:一方で、2024年11月に中国当局による調査拡大報道で株価が急落しました。また、証券詐欺または違法行為疑惑に関する集団訴訟が複数の法律事務所から提起されており、2025年2月21日が訴訟参加の期限となっています。CEOが米国市場への上場移転を希望しているとの報道もあり、英国の規制環境への懸念が浮上しています。

※2025年10月時点のデータです。最新情報はAstraZeneca PLC公式IRページをご確認ください。


2. アストラゼネカの事業内容・成長戦略

(1) 主力事業(オンコロジー・循環器・希少疾患・呼吸器)

アストラゼネカは、英国を代表するグローバル製薬企業で、以下の4領域に注力しています:

オンコロジー(約40%)
がん治療薬領域で世界トップの売上を誇り、主力事業として位置づけられています。

循環器・腎・代謝(25%)
循環器疾患、糖尿病、腎臓病などの治療薬を展開しています。

希少疾患(17%)
2021年7月にAlexion(希少疾患専門)を買収し、5つの上市済み希少疾患薬とパイプラインを獲得しました。

呼吸器・免疫(15%)
喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患治療薬を展開しています。

これらの領域に加え、COVID-19ワクチン(オックスフォード大学と共同開発)でも知名度が急上昇しましたが、非営利方針を採用したため、ワクチン事業は収益への直接的な貢献は限定的です。

(2) セクター・業種の説明(グローバル製薬企業)

アストラゼネカは、「ヘルスケア(Health Care)」セクターの「医薬品(Pharmaceuticals)」業種に属します。

医薬品業界は、長期的な成長性と安定性が評価される「ディフェンシブ株」としての特性があります。一方で、新薬開発の成否が業績に大きく影響するため、パイプラインの進捗状況やFDA承認リスクに注意が必要です。

(3) ビジネスモデルの特徴(高R&D投資・新薬パイプライン)

アストラゼネカのビジネスモデルには、以下の特徴があります:

  • 高いR&D投資: 売上の約25%を研究開発費に投資し、業界平均を上回る製品上市を実現
  • 充実した新薬パイプライン: 2030年までに20種類の新薬を発売予定で、多くがピーク年に50億ドル以上の収益を見込む
  • グローバル展開: 米国市場が売上の約3分の1を占め、残りは国際市場(欧州、アジア、中南米など)

また、2026年までにScope1と2でほぼカーボンゼロ、2045年までにネットゼロ達成を目指すなど、ESG(環境・社会・ガバナンス)にも積極的に取り組んでいます。


3. 競合との差別化

(1) 主要競合企業(Pfizer、Roche、J&J、Merck)

Pfizer(ファイザー)
COVID-19ワクチンで知名度が急上昇したグローバル製薬大手。オンコロジー、循環器、ワクチンなど幅広い領域で競合します。

Roche(ロシュ)
スイスの製薬大手で、オンコロジー領域で強力な競合。バイオ医薬品に強みを持ちます。

Johnson & Johnson(J&J)
米国の総合ヘルスケア企業。医薬品、医療機器、コンシューマーヘルスの3事業を展開しています。

Merck(メルク)
米国の製薬大手。オンコロジー領域で「キイトルーダ」などのブロックバスター薬を有しています。

(2) 競合優位性(オンコロジー世界トップ・希少疾患強化)

オンコロジー世界トップ
がん治療薬領域で世界トップの売上を誇り、多くのブロックバスター薬を有しています。パイプラインも充実しており、長期的な成長が期待されます。

希少疾患の強化
2021年のAlexion買収により、希少疾患領域で競争力を強化しました。希少疾患薬は薬価が高く、高い利益率を実現できる点が強みです。

日本市場でのプレゼンス
2023年国内売上4,960億円で2位に浮上し、トップの中外製薬との差を約500億円まで縮小しました。日本市場での存在感が急速に高まっています。

(3) 市場でのポジショニング(日本市場2位・グローバル展開)

アストラゼネカは、「グローバル製薬大手」として市場で確固たる地位を確立しています。

特に、オンコロジー領域での圧倒的な強さと、希少疾患・肥満薬などの成長領域への積極投資により、長期的な成長余地が大きいと評価されています。また、日本市場でのプレゼンス拡大により、アジア市場での存在感も高まっています。


4. 財務・配当の実績

(1) 売上高・利益の推移(2025年Q2前年比11%成長・2030年目標800億ドル)

2025年第2四半期業績

  • 売上: 144.6億ドル(前年比11%増)
  • EPS: 2.17ドル(アナリスト予想を99%上回る)
  • R&D費用: 売上の23%(17%増加)

長期業績推移(2017-2023年)

  • 売上: 22億ドル → 45億ドル(倍増)
  • 純利益: 30億ドル → 60億ドル(倍増)

2030年目標:売上800億ドル、高1桁台の売上成長と低2桁台のEPS成長を予想

(出典: Nasdaq - AstraZeneca PLC ADR Earnings, Wallet Investor)

(2) 配当履歴(配当利回り2%前後・長期増配実績)

アストラゼネカは安定的な配当を支払っており、配当利回りは約2%前後です(2025年10月時点)。

配当課税の注意点:アストラゼネカは英国企業のADRであるため、配当課税が英国0% + 日本20.315%の二重課税となります。ただし、NISAを利用すれば日本の課税を回避でき、実質的な税負担を軽減できます。

長期的な増配実績があり、ディフェンシブ株として配当収入を重視する投資家に適しています。

(3) 財務健全性(R&D投資25%・売上倍増の実績)

R&D投資
売上の約25%を研究開発費に投資しており、業界平均を上回る水準です。高いR&D投資が、充実した新薬パイプラインを支えています。

売上・利益の成長実績
2017-2023年で売上・利益ともに倍増しており、長期的な成長力が実証されています。

財務健全性
自己資本比率が適切に維持されており、有利子負債も管理されています。財務健全性は良好です。

ポンド/ドル/円の三重為替リスク
ポンド建て配当がドル経由で円転されるため、為替リスクが三重に発生します。円高ポンド安が進むと、円換算後の配当収入が減少する点に注意が必要です。

※2025年10月時点のデータです。最新情報はAstraZeneca PLC公式IRページをご確認ください。
(出典: AstraZeneca PLC Annual Report 2024, Morningstar)


5. リスク要因

(1) 事業リスク(新薬開発失敗・FDA承認リスク・証券集団訴訟)

新薬開発の失敗リスク
医薬品業界では、新薬開発の成功率が低く、臨床試験で期待された効果が得られない場合や、重大な副作用が発見される場合があります。パイプラインの進捗状況を注視する必要があります。

FDA承認リスク
米国市場が売上の約3分の1を占めるため、FDA(米国食品医薬品局)の承認が得られない場合、業績に大きな影響を与えます。

証券集団訴訟
2025年2月21日期限の証券詐欺または違法行為疑惑に関する集団訴訟が複数の法律事務所から提起されています。訴訟の進展を注視する必要があります。

(2) 市場環境リスク(中国当局調査・薬価改定・為替変動)

中国当局による調査拡大
2024年11月に中国事業への調査拡大報道で株価が急落しました。中国市場の売上比率が高いため、地政学的リスクが顕在化した場合、業績に大きな影響を与える可能性があります。

薬価改定
各国政府による薬価改定により、収益性が低下するリスクがあります。特に、日本市場では定期的な薬価改定が行われており、影響を受けやすい状況です。

為替変動リスク
ポンド建て配当がドル経由で円転されるため、ポンド/ドル/円の三重為替リスクが発生します。円高ポンド安が進むと、円換算後の投資収益が減少する点に注意が必要です。

(3) 規制・競争リスク(米国上場移転検討・競合激化)

米国上場移転の検討
CEOが米国市場への上場移転を希望しているとの報道があり、英国の規制環境への懸念が浮上しています。上場移転が実現した場合、株式の取り扱いに変更が生じる可能性があります。

競合の激化
Pfizer、Roche、J&J、Merckなどのグローバル製薬大手との競争が激化しており、市場シェアや薬価の圧力が高まる可能性があります。

ADR特有のリスク
通貨リスク、外国市場リスク、集中リスクなど、ADR特有のリスクも存在します。


6. まとめ:投資判断のポイント

(1) この銘柄の強み(オンコロジー強化・長期成長戦略・ディフェンシブ株)

  • オンコロジー世界トップ: がん治療薬領域で世界トップの売上を誇り、充実したパイプラインを保有
  • 長期成長戦略: 2030年までに売上800億ドル目標、20種類の新薬発売予定
  • ディフェンシブ株: 配当利回り約2%、長期増配実績があり、安定配当を重視する投資家に適している

(2) リスク要因(新薬開発リスク・中国調査・三重為替リスク)

  • 新薬開発リスク: 臨床試験の失敗やFDA承認の遅れが業績に影響
  • 中国当局による調査: 地政学的リスクが顕在化した場合、業績に大きな影響
  • 三重為替リスク: ポンド/ドル/円の為替変動により円換算後の投資収益が変動

(3) 向いている投資家(長期投資家・配当重視・ヘルスケア志向)

アストラゼネカは、以下のような投資家に向いています:

  • 長期投資家: 2030年までに売上800億ドル目標、20種類の新薬発売予定など、長期成長戦略が明確
  • 配当重視の投資家: 配当利回り約2%、長期増配実績があり、安定配当を求める方に適している
  • ヘルスケア志向の投資家: ディフェンシブ株としての安定性を評価できる方

一方で、短期的な株価変動を避けたい投資家、為替リスクを避けたい投資家には注意が必要です。

免責事項: 本記事は情報提供を目的としたものであり、個別銘柄の推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データ、税率、為替レートは執筆時点のものであり、変動する可能性があります。


Q: アストラゼネカの配当利回りは?

A: 配当利回りは約2%前後です(2025年10月時点)。アストラゼネカは英国企業のADRであるため、配当課税が英国0% + 日本20.315%の二重課税となる点に注意が必要です。ただし、NISAを利用すれば日本の課税を回避でき、実質的な税負担を軽減できます。長期的な増配実績があり、ディフェンシブ株として配当収入を重視する投資家に適しています。

Q: アストラゼネカの主な競合は?

A: Pfizer、Roche、Johnson & Johnson、Merckなどのグローバル製薬企業です。オンコロジー領域では世界トップの売上を誇り、希少疾患(Alexion買収)でも競争優位性を確立しています。日本市場では2023年に2位に浮上し、トップの中外製薬との差を約500億円まで縮小しました。

Q: アストラゼネカのリスク要因は?

A: 主なリスク要因は、(1)新薬開発の失敗リスク、(2)中国当局による調査拡大、(3)証券集団訴訟、(4)薬価改定、(5)ポンド/ドル/円の三重為替リスク、(6)米国上場移転検討などです。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。

Q: アストラゼネカは長期投資に向いている?

A: 2030年までに売上800億ドル目標、20種類の新薬発売予定など長期成長戦略が明確で、配当も安定しているディフェンシブ株として長期投資家に向いています。ヘルスケアセクターの安定性、オンコロジー世界トップの地位、希少疾患・肥満薬などの成長領域への投資により、長期的な成長が期待されます。投資判断はご自身の責任で行ってください。

よくある質問

Q1アストラゼネカの配当利回りは?

A1配当利回りは約2%前後です(2025年10月時点)。アストラゼネカは英国企業のADRであるため、配当課税が英国0% + 日本20.315%の二重課税となる点に注意が必要です。ただし、NISAを利用すれば日本の課税を回避でき、実質的な税負担を軽減できます。長期的な増配実績があり、ディフェンシブ株として配当収入を重視する投資家に適しています。

Q2アストラゼネカの主な競合は?

A2Pfizer、Roche、Johnson & Johnson、Merckなどのグローバル製薬企業です。オンコロジー領域では世界トップの売上を誇り、希少疾患(Alexion買収)でも競争優位性を確立しています。日本市場では2023年に2位に浮上し、トップの中外製薬との差を約500億円まで縮小しました。

Q3アストラゼネカのリスク要因は?

A3主なリスク要因は、(1)新薬開発の失敗リスク、(2)中国当局による調査拡大、(3)証券集団訴訟、(4)薬価改定、(5)ポンド/ドル/円の三重為替リスク、(6)米国上場移転検討などです。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。

Q4アストラゼネカは長期投資に向いている?

A42030年までに売上800億ドル目標、20種類の新薬発売予定など長期成長戦略が明確で、配当も安定しているディフェンシブ株として長期投資家に向いています。ヘルスケアセクターの安定性、オンコロジー世界トップの地位、希少疾患・肥満薬などの成長領域への投資により、長期的な成長が期待されます。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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Single Stock編集部

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